UD塾 #1レポート「ユニバーサルデザインで明日の暮らしとビジネスを創る」

7/29 UD塾#1

「ユニバーサルデザインで明日の暮らしとビジネスを創る」

UD塾は、過去2年間の活動で関わりができた多様なユーザーや、企業会員、事業主体、様々なプレイヤーが相互連携できる活動母体として、情報交換や交流を行いユニバーサルデザインプロジェクトの創出を目指す学びの場である。

2019年7月29日、第1回は「ユニバーサルデザインで明日の暮らしとビジネスを創る」

石川県工業試験場デザイン開発室研究主幹で、UDiの会員でもある、餘久保(よくぼ)優子さんを講師に迎えた。

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餘久保優子さんは、ユニバーサルデザインをライフワークとしながら、伝統工芸品から福祉用具、工作機械まで、県内企業の様々なデザイン開発を支援し、近年は3Dモノづくり技術を活用した製品の使いやすさ向上、開発時間の短縮やコスト削減に取り組んでいる。

ユニバーサルデザインに関わる道を志したのは、17歳の進路選択の時であった。障がいを持つ人々と関わり、世の中にはモノがあふれているにもかかわらず、生きるために必要な道具が、必要としている人々に届いていないことを知り、「障がい」は本人を取り巻く環境からも作られている事に気付いた。できないと決め付けるのではなく、みんなで手を取り合いながら、より生きやすい社会を実現したいという思いが芽生えたのであった。


縦ではなく横のつながり

東京2020オリンピック・パラリンピックを間近に控え、高齢化が進む日本社会で、3Dものづくり技術やAI、IoT等を活用したデザインプロセスのニーズが高まっていることを受けて、平成30年10月14日~11月9日の27日間、餘久保優子さんはアメリカに視察に赴き、ジョージア州アトランタ、ニューヨーク州バッファロー、マサチューセッツ州ボストン、ワシントンD.C.、ワシントン州シアトル、オレゴン州ポートランド、カリフォルニア州サンフランシスコを回った。

視察を行っていくと、アメリカの各所では当然のように、障がい者に視点を合わせて環境や製品開発に取り組まれており、すべての担当者が共通した以下の意見を持っていた。
・障がい者の世界人口は10億人とされており、総人口の15%にあたることから、標準機能としてユニバーサルデザインを取り入れていく必要があること。
・また、今後は高齢人口が増加し続けるため、その需要は増え続けること。
・障がいを持つ人に基準を合わせていくことで、あらゆる人々が恩恵を得られる社会が実現していくこと。
また、開発プロセスの中で、異なる専門家同士が「縦のつながり」ではなく、フラットな「横のつながり」を結び、最適な解決策をみんなで見つけ出そうとする協働の姿勢を感じたのであった。みんなの中には、当事者である障がい者も含まれ、製品開発の初期段階から意見を取り入れる環境が整っていた。


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福祉=ビジネス

アメリカのユニバーサルデザインはADA法(注)と深く関係し、アメリカの競争や訴訟社会の歴史との相互関係の上に成り立っている。

障がい者はADA法に違反していることや、不便に感じることを発見すると苦情を申し立て、相手側が応じなければ裁判に持ち込み、地元の関連企業が、環境やサービス改善に向けて開発や整備を進めている。アメリカではこのように、障がい者自らが、環境の改善のために声をあげ、その結果、地元の関連企業の利益につながり、障がい者だけでなく、あらゆる人々にとって便利な環境が実現されるという好循環が生まれ、それらがビジネスとして成り立っている。

餘久保さんが訪れたマサチューセッツ州ボストンにあるIHCD(人間中心デザイン研究所)では、政府や企業とコンサルタント契約を行っており、当事者である障がい者が「エキスパートユーザー」として、アドバイスを行っている。


注)障がいを持つアメリカ人法。1990年7月に制定され、1964年制定の公民権法が人種、性別、出身国、宗教による差別禁止と同様に、障がいを持つ人が米国社会に完全に参加できることを保障している。ADA法は4つのフェーズに分類されており、Ⅰ雇用:政府や公共団体、従業員が15人以上の民間企業は障がいを理由に雇用を断ることができず、就労の訓練に必要な器具や設備を準備することが義務付けられている、Ⅱ政府の全ての公共サービス、Ⅲ民間機関が運営する施設及びサービス:銀行、レストラン、スーパーマーケット、ホテル、映画館等が含まれる、Ⅳテレコミュニケーション:ラジオやテレビ、インターネット等が含まれている。


潜在ニーズ×テクノロジー

無人レジ店舗である「Amazon GO」は、障がい当事者が設計を担当し、あらゆる人々が世界一アクセスしやすい店舗を目指して設計されている。
Microsoftでは、障がいを持った顧客に対する製品開発に積極的に取り組んでおり、カメラで目の前の視覚情報を音声に変換するアプリ「Seeing AI」を視覚障がい者を対象としたスマートグラスに埋め込む開発や、パーキンソン病患者の手の震えを抑えるデバイス、2018年には「AI for Accessibility(障がい者のためのAIプログラム)」に、5年間で25億円を追加投資する計画を発表した。  
Appleも障がい者雇用や支援技術開発に積極的であり、人工内耳システムの専門企業とiPhoneで直接操作できる聴覚補助技術や、触覚フィールドバック技術「Taptic Engine」を開発しているが、これらはiPhoneの標準機能として全ての人が恩恵を受けている。今後発表予定である、IOS13では、音声認識技術が向上し、全く手を使わなくても様々なことが実現できるようになる。その様子が電動車椅子のユーザーをモデルとして映像で紹介されている。
Local Motorsが開発している無人運転バス「Olli」にはIBMが開発した質疑応答システム「Watson」が導入されており、手話や白杖、認知症や車椅子の人を認識し自然な会話で対応することができる。「Olli」は、車両の90%が炭素繊維を配合した樹脂材料の3Dプリンターで作製されているというから驚きだ。
Olliの内部のオプションとして、車椅子の両側の車輪を、ボタン一つで固定できる電動アームが装備されている。これらはバッファローのIDeA(インクルーシブデザインセンター)で、バスの内部を原寸大で再現し、ユーザー評価を行いながら開発されている。

障がい者が持つ潜在ニーズと最新のテクノロジーを組み合わせることで、新しいサービスや製品開発につながり、標準機能としてアクセシビリティを取り入れることであらゆる人々が恩恵を得ることができる。
アメリカではAmazon、Apple、Microsoft、Local Motors等の企業だけでなく多くの企業がアクセシビリティに力を入れることがメインストリームとなっている。

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世の中にない必要なものを創りだす

餘久保さんは、視察を行った機関に共通していたこととして、初期の段階から、設計者が現場で障がい者の本音を聞きだし、共感できるまで観察し、その過程を写真や動画で記録して関係者間で情報共有を行い、適したカタチが見え始めたところで等身大の簡易モデルを作製し、障がい当事者のニーズを解決できているか確認しながら開発していくという手法を発見した。障がい者の本音が環境改善への大きなヒントとなるのである。
アメリカのユニバーサルデザインはデザイナーだけではなく、障がい者や専門家が協力し合い継続して作りなおすことが前提にある。そのため、ユニバーサルデザインの開発プロジェクトの完了は終わりではなく始まりと捉えている。その中でデザイナーが果たす役割は、価格や品質の競争ではなく「共創」であり、多くの複雑な情報の中から解決に向けた最適な一滴を絞り出し、世の中にない必要なものを創りだすことである。


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対話の場の創出

アメリカや北欧と比較すると、日本の製品開発の現場ではまだまだ、対話の場の創出ができていないようだ。製品開発の初期段階から各分野の専門家と障がい者が横つながりのチームを作り、問題やニーズを見つけ出す環境の整備が必要である。問題やニーズを見つけ出す際には、一方向ではなく、双方向の対話から発見していくことが重要である。

餘久保さんは以前、デンマークに留学しユニバーサルデザインを学んでいたことがある。その際にデンマークの行政担当者からの言葉として学んだ「自国を良くしたいという同じ想いをもつ、関係者同士の尊敬・対話・信頼・合意」が、ユニバーサルデザインの実現には必要であり、同じ想いを持つ人々と手をつなぎ、少しずつでもより良い社会を作っていきたいという最後の言葉が印象的であった。

これからUDiは対話の場を創出していくだけでなく、製品開発を行う企業や団体に障がい者を紹介する役割も担っていきたい。