2020.02.09 セミナー UD塾#3 ○△□茶会のプロセス UD塾は、過去2年間の活動で関わりができた多様なユーザーや、企業会員、事業主体、様々なプレイヤーが相互連携できる活動母体として、情報交換や交流を行いユニバーサルデザインプロジェクトの創出を目指す学びの場です。2020年2月9日、第3回は、「〇△□茶会のプロセス」と題し、UDiと連携して2019年12月に「〇△□茶会」を共催した、金沢美術工芸大学 工芸科教授の池田晶一さんを講師に迎えました。 一昨年から始まった「〇△□茶碗プロジェクト」障がいのある、なしに関わらず、皆でお茶碗を作って、茶会を開催する。その過程では、他の人との違いや自分の内面に「気づき」「学び」「分かりあう」という創造的かつ、心が温かくなる空気が流れていました。 UDiとの出会い 池田晶一さんは、金沢美術工芸大学工芸科の教授であると同時に、陶磁器を専門に作家として作品を制作している。工芸デザインを専門とし、岡山県立大学で助手をされた後、日本福祉大学で、ユニバーサルデザインやバリアフリーデザインといった分野の講師として働くこととなった。ユニバーサルデザインについて、考えるようになったのは、その頃からである。ユニバーサルデザインとはどういったものかを、ものづくりをする者として、今もなお、考えを巡らせている。バリアフリーは、できないことをできるようにするという目標があるが、ユニバーサルデザインは、デザインの展開方法に答えがない。2017年初夏、ユニバーサルデザインの考えを取り入れた茶会で使う茶碗を制作する人をUDiが探していると聞き、おもしろそうだと話を進めた。引き受けたはいいが、ユニバーサルな茶碗とは一体何なのかと、思案した。自らが、ユニバーサルデザインの茶碗の形というものを作り、障がいがある方にそれを評価してもらうというのは、押しつけがましく、違うと思ったため、障がいのある方と集まり、みんなで作ってみようというところが出発点だった。茶碗の制作にあたっては、具体的にこういう風にしたらいいというものがなく、いろいろなことを模索しながら、進めていった。完成した茶碗を、センシティブユーザー(注1)がどのように持っているのかを写真に撮って確かめたが、各々にそれぞれの形があった。手で挟み込むような形の平茶碗では、少し傾けるとお茶が全部口にすっと運ばれていく。深い茶碗では、ぐっと傾けないと飲めない。そのようなことを実際に見て、みんなで勉強しながら進め、2017年10月第1回〇△□茶会を鈴木大拙館で開催した。 (注1)視覚に障がいを持つ人が、触覚や聴覚から得られる情報に敏感であるように、センシティブな感覚を持っているという捉え方から、車椅子ユーザーや視覚や聴覚などに障がいを持つ方のこと。 ○△□の意味するもの 「〇△□茶会」という名については、完成した茶碗を整理しながら見直すと、上から見たら〇だが、横から見たら△と□だと気づいたことと、さらに、鈴木大拙館に「〇△□:the Universe」の軸があったことから、〇△□茶碗としようという発想だった。それらが、ちょうど、つかむ形、はさむもしくは乗せる形、包む形というように、手の形が集約できていた。三つの形をベースに考えていけば、ある程度のいろいろな人たちの状態に合わせて、ものを考えられるのではと思う。 第1回○△□茶会では、予期せぬ停電がおこり、真っ暗に近い状態となったため、人に見られて阻喪をしたらどうしようという思いに至らずに済んだ。隣の人が、お茶を飲みお菓子を食べているが、具体的なところまでは見えない。そのため、空間のありかたが違って、自分の世界に集中できた。また、暗い中なので意識的にものを見ようとする。普段は何気なく見たら分かったような気になるが、見ようとしないとわからないため、一生懸命情報を得ようとしていた。また、出来上がったお菓子は、ホットプレートで温めたもので、手でつかんでいただくので指先から温度が伝わり、温めてあることで香りもたつ。五感を使ってお菓子やお茶をいただくということが実現できていたのだ。これらのことは、計画的にやっていないからおもしろい。 「思い」と「対話」 〇△□茶会に、次は何を求めるかとなり、道具としての茶碗を考えたときに、そこにどういう価値があるだろうかと考えた。ユニバーサルという言葉をどのように使うかを工芸で考えるとき、もっと別の価値を入れられるのではないか。新しい価値を作るために、茶碗という道具に対する思い入れというのを、具体的に土、絵、釉薬などに入れ込んでいく。金沢美大には、「手で考え、心で作る」という言葉があるが、まさにこのことと感じている。2019年の茶碗制作のワークショップでは、形以外の価値ということで、思いを入れていくことを一つの軸にした。また、センシティブユーザーには一人ずつサポート役として大学助手などをつけ、学生も手伝いに入った。センシティブユーザー、制作スタッフ、工芸科の1年生、UDiのスタッフが、一緒に制作し、そこで対話が起こった。センシティブユーザーから普段こういった苦労や不便があるという話を、サポーターや学生が聞き、それを受けて、茶碗をどのような形にするかという、少し違う視点で見ることができる。また、美大の学生が自分の作品についての話をユーザーが聞いたときに、何か学びになる。そういった、みんなで作ることによって、対話から生じる、共有する価値を持ちながら進めていった。 そして2019年12月、しいのき迎賓館で第2回〇△□茶会を開催した。この茶会は、ワークショップで制作したお茶碗を全て並べ、その中から、参加者がそれぞれ茶碗を一つ選び、それで抹茶を点ててもらい、お菓子とともにいただくというものだ。さらに、ひとりひとりが、なぜその茶碗を選んだのかといった対話をする立礼式(注2)の茶会である。茶碗を選ぶ際、ほとんどの方が、全ての茶碗を触って決めていた。持った瞬間に、直観的に決める人もいれば、じっくり選んでいる人もいた。以下、茶碗を選んだ理由をアンケートから抜粋 ・それぞれ器を選んだ理由を共有したときに、心で感じたこと身体で感じたことがあり、障がいを持つ方とそうでない方と感じることの違い。また、どちらが正しいということではなく視点の違いでもあり、心で感じることに違いはないようにも思います。ともに生きるとは違いを知りともに感じていくことであるのだと感じました。・器の持ちやすさ、飲み易さなど、選ぶポイントは人にとって千差万別なのだと改めて感じました。まさにユニバーサルなのだと思います。 選ぶ側の心の内側と、作る側のそこに入れている大事な思いを、みんなが口に出して話し、お互いに聞いている、という不思議な状況がこの茶会の中で起こった。茶碗制作ワークショップから、器をみんなで作ってきたのだが、それだけでなく、「対話」を通じてなにか大事なものを作りあげた茶会となった。 (注2)テーブルと椅子を用いて茶を点てる、茶道の形式。 人に寄り添う工芸 この茶碗制作のプロジェクトは、ただ作品としての茶碗を作るということではなく、ユーザーの所作や動作を観察して、ベストな状態のものを作っていくということを目指していた。そこに、工芸ならではの、実際に指先で感じながら形を作るということが含まれている。現在、工芸の作品は、自己主張をしているような作品ばかりだが、もっと自然な形であっていいのではないか、工芸とはそもそも人に寄り添うものを作っていたはずではと感じている。お茶会についても、きちんとした格好をして、みっともないことしないようにと考える緊張の連続で、はたして茶を楽しんでいるのか、と思うことがある。形式化されている工芸やアート、お茶があり、それにいろいろな疑問がわいてきており、これからの課題である。また、今回の茶会では、いろいろな参加者がおり、それぞれに様々な感想をいだくことができた。これらをうまい具合に消化していきたいと思案しているところだ。 さまざまな人が対話しながら関わりあうことで、見えることがある。社会の多様性を、交流していく中で学び、理解し、それぞれが考えていくことで、暮らしやすい社会になるのであろう。